カオス・フラクタル・複雑系についての研究

この3つの概念は互いに密接に関係しているので、3つとも一緒に勉強しています。
それぞれは、一体どういう物なのだろうか?

1)カオスとはなにか?

自然の現象はすべて何らかの法則に従っています。
例えば、ニュートンが発見した力学の法則に従って物体の運動が決定されているのです。物体の初期の位置と速度が分かれば、その後の任意の時刻でどの位置にどんな早さでどんな方向に動いていいるかは、計算で決定することができます。力学の法則は微分方程式で表現されていて、原因が与えられれば結果を導くことができます。初期の状態という「原因」を与えると、その後の時刻での状態(すなわち「結果」)を決定できます。一つの原因から一つの結果を導く法則です。1つの原因から複数の結果が生ずることはありません。このような法則を決定論的法則と呼ぶことにしましょう。

近代になって、ミクロの世界ではニュートンの力学は正しくなく、量子力学がそれに変わることが発見されました。量子力学では前に述べたような原因と結果の1対1対応は成立していません。

話を決定論的法則の従う世界に限りましょう。惑星の規則正しい運動はみごとに説明できます。日食の予言も非常に正確にできます。人工衛星を打ち上げて正しく軌道にのせることもできます。しかし一方、天気予報はそれほどの精度はありません。まして、長期の予想は外れることが多いのです。ローレンツという学者は、どんな立派な計算機が在っても長期の予想は不可能であることに気がつきました。これが「カオス」の研究の始まりになりました。(もっとも、カオスのルーツは他にもあるのですが。)

天気予報は例としては複雑すぎますから、サイコロを例にして説明しましょう。適当な高さからサイコロを投げ、平面に落ち何回かはずんで、複雑にころがって最後に1つの目が出るのです。この運動はニュートンの力学に従っています。ですから、原因と結果は1対1の関係であるはずです。出る目がやる度に異なるのは、サイコロが手から放れる瞬間の状態が、その度にことなるからであると理解されています。手投げでは確かに初期の条件がちがいますから、装置を使って放す瞬間の条件を同じにして、サイコロのでる目を測定したとします。このような実験をしても、やはり出る目は1通りとは限らないことが分かります。もちろん、低い位置からサイコロを放せば、出る目は1通りになるでしょうが、ある程度高くすると出る目がばらつくのです。この実験は、原因と結果の1対1の予想に反するわけです。初期条件を同じにしても結果が複数あることになります。ニュートン力学が適用できないのか?まさか量子力学を適用しなければならないのか? 
この矛盾は、カオスの概念を導入することで解決します。カオスを起こす場合には、初期条件の誤差が急速に拡大してしまう事が知られています。サイコロを正確に同じ条件で放したつもりが、実は、わずかに誤差を含んでいてそのたびに結果が違ってしまったのです。

まとめると、カオスは、原理は決定論的だが事実上確率過程のように見える現象のことを指します。カオス現象の時系列データは、とても複雑で規則性が無いように見えるが、決して確率過程ではないのです。従って、われわれは次のような教訓を忘れないようにしたいのです。何か分からないが時系列データがとても複雑でランダムな振る舞いをしているとします。しかし、この現象を確率過程と早計してはならないのです。それがカオスである可能性もあるのです。もし、カオスであれば、そのデータの背後に簡単な規則が隠されているから、その法則を発見し、その法則から将来を確実に予想する事ができるのです。

2)フラクタルとはなにか?

世界の対称性と自然法則の間には密接な関係があることはよく知られていますが、世界の「自己相似性」に着目するとフラクタルに突き当たります。右図を見て下さい。

シダの葉と分かると思います。1つの枝は全体を縮小した相似形をしています。部分が全体と相似な性質を自己相似性と呼んでいます。なお、この図は現実のシダの葉をスケッチしたものではなく、自己相似性という性質に基づいてコンピュータで描画したものです。「Fractal everywhere」という題名の本がありますが、題名どおり、フラクタルはその気で探せば、いたる所に存在します。自然界にも、山、川、海岸、雲、稲妻、雪片などがフラクタルですし、物理学で扱っている相転移はフラクタルと関係が深いのです。人文科学でも、Zipfの法則という経験則があります。すなわち、種々の自然言語に共通に成立するのですが、「多くの文章の中から単語をその頻度順に並べた時、第r位のランクだった単語の頻度は1/rに比例する」という法則です。その他色々なフラクタルが知られていますが、なぜフラクタルになっているのか、その理由が明らかになっているものは少ないのです。

フラクタルは美しい図形として知られています。この図形は不思議な構造をしていて、図形の一部を拡大するとさらに細かい構造が見えてきて、際限なく細い構造を持っています。ですから、フラクタルはいたる所滑らかでない図形です。従って、フラクタルは非整数次元の図形になってしまいます。

カオスとフラクタルは密接に関係しています。カオスを図形化するとフラクタルになることが知られています。逆のフラクタルの本質はカオスなのかも知れません。

3)複雑系とはなにか?

複雑系一般の定義を述べても分かりにくいので、複雑系の代表例として「脳」をとりあげます。
よく知られているように、脳はニューロンという細胞のネットワークから成り立っています。しかし、基本要素がニューロンと分かっていても、学習、記憶、言語、まして「心」などの脳の高次機能を説明することはできていません。要素と全体との間にあまりにも大きなギャップがあるような複雑な系を「複雑系」と呼ぶことにします。
脳の研究にはボタムアップとトップダウンの2つのアプローチがあるようです。ボタムアップでは、脳自体を最先端の手段を駆使して詳しく調べるアプローチで、神経解剖学、神経化学、神経生理学、心理学などがあります。一方、トップダウンでは、理論的、情報学的アプローチで、脳にヒントを得て数理モデルを構築して脳機能の本質を発見しようとしています。ニューラルネットの研究は脳理論として重要であるばかりか、むしろ脳自体から離れて情報処理として工学的応用の方向に進んでいます。
ともかく、脳のように基底の要素から最上階の脳機能の間に多くの階層が隠れていて、複雑すぎてとても科学の手に負えないと思えてくるような極めて複雑な対象が科学者の前に残されていますが、それでも科学は挑戦してゆかなければなりません。
脳 だけではありません。その他、生物の機能は分からないものばかりですし、人間の集団としての社会現象、とくに経済現象などの難問が残っています。これらの難問は、すでに研究の歴史が長く、それなりの膨大な世界が広がっています。
しかし、脳の研究と経済の研究のに共通する革新的な方法論が将来見つかるとすれば、それこそが、複雑系理論と呼ぶにふさわしい理論になることでしょう。

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